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TRAINING PROGRAM / STUDENT SQUARE

石・タイル工場見学

協力:株式会社ガイアテクノ三重工場、株式会社INAX常滑東工場・榎戸工場

小菅 俊太郎(建築)
2004年入社



ガイアテクノの工場の広い敷地には、約30tクラスの多種多様な石材が原料としての姿そのままに並べられている。さながら魚の卸売市場にマグロが並べられている光景を髣髴とさせる。マグロ一匹は車一台ほどの値段と言われるが、石材もまた然り、価格はピンからキリまであるものの、やはり30tで車一台ほどの値段である。
石材には木材と同じく板目と柾目がある。水平方向に積層される木材の樹皮とは違って石材の地層は垂直に積層されるので、木材とは異なった座標軸になるわけだが、外観も性質もやはりこの板目と柾目という方向性の影響を強く受ける。日本人は大理石の複雑な紋様を一つのステータスとして楽しむ傾向があり、大理石に関しては強度が弱いにも関わらず、柾目方向の石材が好んで用いられている。
特殊金属とダイアモンドの粉末を熱溶着して精製された歯で、あるいはその粉末を用いて石材をカットする作業は思ったよりも時間がかかり、石をまっすぐにカットするノウハウは非常に感覚的な経験値により制御されていた。19世紀以降いまだに最も効率的な石材切断機器としての座を譲っていない「ガングソー」の圧倒的なオーバースケールは圧巻であった。石材の種類の豊富さとともに意匠的調和性を持ってそれを産出していくこの工場の人々の職人的な「目」にいかに建築デザインというものが支えられているかを実感した。

石材が刺身や肉を連想させる材料であるなら、タイルはさながらパンのような建材であろうか。粘土や陶石といったパウダー上の原料を押し固めてあるいは湿式で練り固めて焼成する。INAXの工場のラインは意外に小規模なものだった。既製品も確かにあるが、やはり形態的に各物件毎に型の違う特注品の需要が高く、役物など特殊な部材が多いということも関係しているように感じる。石材にも共通して感じた点であるが、普段できあがった状態でしか接していないものにまだ原料としての段階で接することができた経験は、その素材に関する親近感や、その材料の可能性に関する理解を自分の中で広げてくれたように思う。
INAXの衛生陶器工場での経験も非常におもしろいものだった。衛生陶器とは、これまでのイメージでは「白くて硬い既製品」というイメージだったのだが、釜に入れられる前後で10%あまりも体積が伸縮するその過程を見たことは自分の中でものの捉え方のイメージを非常に柔軟なものに変えてくれたような気がする。また、自分の持っていた「既製品」とは機械的に寸法、穴のあいている位置などが正確なものというイメージだったのだが、伸び縮みする衛生陶器の姿を見て、既製品の生産の背後にあるものに目を向けさせられた。INAXの陶器工場にも精度の低く人力を多く要する従来の方式と、精度の高い先端的な生産方法が両立していた。生産のオートメーション化はやはり絶え間なく進んでいる。当然多くの試行錯誤の元にオートメーション化は成り立っていくのだが、ものの生産の仕方を変革していくことの価値も私はこの工場で感じた。「建築の生産の仕方とは?」という問いが頭をよぎった工場見学でもあった。