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WORKS 2000

ジョン・レノン・ミュージアム

用途:ミュージアム、資料館
所在地:埼玉県与野市
延床面積:1,500m2

設計主旨

ジョン・レノン・ミュージアムは、21世紀に残したいアーティストの一人であるジョン・レノンを記念する世界初の常設ミュージアムとして、2000年10月9日に、さいたまスーパーアリーナ内にオープンしました。
計画は1999年春から始動しました。当社開発部(現ミュージアム・タイセイの母体)、コンサルタントのプロデュースセンターと当社設計の三者で発足した「大成建設株式会社プロジェクトチーム」は、5月にミュージアムの企画書をまとめ、模型を携えて、ニュー・ヨーク、ダコタハウス在住のレノン未亡人、オノ・ヨーコ女史へのプレゼンテーションに赴きました。
時系列でジョンの生涯をたどる展示ストーリーや、4階部分では、ジョンの生涯を俯瞰する映像を流すシアター、ジョンの前半生(ヨーコと出会う以前)をたどる展示を、5階部分では、後半生(ヨーコと出会ってから)をたどる展示、及び彼のメッセージを抽象的に扱った空間を展開するとか、それらをエスカレーターでつなぐ動線計画等、現在のミュージアムの最終形の骨子は、その時すでに組み上がっていました。
女史からの全体プランの合意を得て、6月からは展示計画スタッフとして丹青社のデザイナーを迎え、具体的な展示方法、展示物、映像、音楽などの詰めを行っていました。大成の設計は、2階チケットカウンター、4階のカフェ、ミュージアムショップを含むパブリック部分と、展示の外郭プラン、展示とパブリックの取合いにあたるミュージアムエントランス、5階のファイナルルーム「メッセージ」と、イベントルーム「フォーエバー」の設計を手掛けました。
「ゴッド」や「イマジン」の歌詞にもあるように、自分を取り巻く既成概念、慣習的な価値判断を、まず振払いたい。その先に本当の自分を見たい。というのが、ジョン・レノンにとってビートルズ解散後の大きなテーマでした。作者の手を離れ、観る者の解釈に委ねられる時に、どれだけ能動的な思考を誘発できるかというテーマのみに自らのアートの興味を注ぐ、前衛芸術家オノ・ヨーコと共感できたのは、彼にとって必然的な事件だったともいえます。
このミュージアムの全体イメージを包含するイメージには、ジョンのこうした現代アート的な思想を反映させました。そのため、空間を、白と透明を「基調色」として構成し、柔らかくニュートラルな雰囲気を作り出しました。
エントランスは、白い壁面と天井に、フロア中央に出て来る柱とインフォメーションカウンターのガラス色を包み込ませました。
フロアの両端に位置するショップとカフェには、それぞれにゲート的な広く四角い開口をもたせ、2階から上がってフロアを見渡した時には、ミュージアムの入口と隣り合うカフェの入口が目に飛び込み、展示を見終わって5階からエスカレータで降りてきた時には正面にショップの入口が見えるようにプランニングしました。カフェはジョンが生前ヨーコとともによく訪れた軽井沢の自然と、家族の幸せをテーマとし、内部にテーマに即した写真のコラージュを壁面いっぱいに掲げました。ショップの入口では、限り無く薄くした三原色のドットでジョン・レノンの肖像を壁面に描きました。パブリックエリアは、このようにジョン・レノンの具体的なビジュアルはポイントだけに止め、「空気の中にジョンがただよっている」と来館者に感じさせるような設計を心掛けました。
ミュージアムエントランスは、大きな曲率を持った白い壁で来館者を抱き寄せるように設定しました。そこを通過して来館者はシアターに入りますが、シアター前のホワイエは、パブリックとは逆に、コンクリートのグレー、メッシュ天井のブラックなどの色彩が多用されている4階部分の展示空間への橋渡しとして、壁、天井を黒く仕上げました。
5階の展示では、ジョン・レノンが音楽への取り組み方をポップスからアートに移行させ、ヨーコの影響のもと世界観を拡げて行く重要な時期を扱っており、それだけに、展示経路の最後を飾る部屋に関しては期待度も高く、事業者、コンサルタント、展示設計者とも、度重なる議論を必要としました。
ジョン・レノンの楽曲、活字で表された言葉、肉声でささやかれる声、それら分解されたジョン・レノンの「メッセージ」が、真っ白でニュートラルな空中に漂って、互いに溶け合う空間が作りたいと考えた我々は、当初展示エリアから「メッセージ」の部屋に突き刺さって行くようにしつらえた、壁面に文字を書き列ねたガラスのシャフトを提案しました。技術的、博物館運営的な側面から検討を重ねた上で出てきたのは、部屋の中央部を貫く柱を内包する白い壁と、それとずれた位置で平行して立ち上がるガラスの面にジョン・レノンのメッセージが書き列ねられているという解答でした。
「イマジン」の歌詞は、この情緒的な空間を説明する上で非常に重要でした。
以下に例をあげます。

ニュートラルな空間 = Imagine.......no.......
ルーバー越しの自然光 = Above us only sky
メッセージが飛び交う = You may say I'm a dreamer
空間を構成する = But I'm not the only one
選択性を持って動ける空間 = I hope someday you'll join us
And the world will live as one

我々の仕事は、この物質に置き換えられた概念を組み合わせ、空間化することでした。従って、当初のガラスシャフトのイメージと、現在の壁の表現とは、互いに矛盾することはありません。
「メッセージ」を出て、正面の部屋は「フォーエヴァー」と呼び、イべントルームと位置付けられています。オープン後1年を経て、次なる展開が期待されるミュージアムの企画を支える部分として、もう一つのニュートラルカラーであるグレーを基調とした、直天井のこの部屋が今後担う役割は大きくなっていくことと思います。

担当

大成建設担当者
建築設計 久保勝彦、林友斉、坂井美絵
構造設計 中川路勇
設備設計 角田宜彦、廣川純一
インテリア 高橋洋介