WORKS 2024

荏原 畠山美術館

Ebara Hatakeyama Museum of Art

  • 新館東側外観:「やきもの」で覆い、茶道美術館を象徴する外観。現代風なまこ壁の瓦の風合いを「泥漿鋳込み成形」「還元焼成」による陶板で製作

  • 本館西側外観:1964年に竣工した本館。改修後も変わらぬ姿で来館者を出迎える

  • 本館1階ロビー:即翁考案の末広(扇子)文様の木製パネルが来館者を迎える

  • 本館2階展示室:即翁が拘った「一望性」と「窓からの自然光」を受け継ぎつつ、展示ケースを更新・再編成することで心地よい「間」をさらに洗練し、鑑賞性・回遊性を向上

  • 本館2階展示室:国宝・重要文化財を含む美術品を自然の移ろいとともに鑑賞できる

  • 渡り廊下:能舞台の橋掛かりをイメージした本館と新館を繋ぐ渡り廊下

  • 新館展示室:展示物のみが引き立ち、鑑賞を妨げるノイズがない環境を実現

  • 新館ホール:規模を拡張した多目的室や新設した茶話処が隣接するホールは、多様な人々が集う場となり、茶の湯文化を豊かに味わう体験を拡張

  • 新館庭:既存の石塔と井筒を活かした庭をガラス越しに眺める

  • 工事中の様子:(左上)新館外壁陶板モックアップ確認/(中上)本館展示室庇構造補強、組み立て確認/(右上)本館展示室独立展示ケース配置確認/(左下)改修前後配置図/(中央)既存木部の灰汁洗い確認/(右中)本館展示室壁面展示ケース生かし取り後組み立て/(中下)新規館銘板の設置高さを確認/(右下)本館展示室聚楽壁の色決め

用途
美術館
所在地
東京都港区
延床面積
2,935.49m2
階数
地下1階、地上3階、塔屋1階

建築設計コンセプト

茶の湯文化を軸に 美の体験を拡張し 未来へと繋ぐ美術館

1964年に実業家・畠山一清(即翁)が創設した、茶道具を中心に国宝6件、重要文化財33件を含む約1300件を所蔵する私立美術館のリニューアル計画です。開館60年を迎える2024年10月にリニューアルオープンしました。
一清が願った「即翁衆と愛玩す」・・・茶の湯にまつわるコレクションを多くの人と共に楽しむ伝統を受け継ぎ、未来への革新を試みました。かつて即翁がつくりあげた、茶室•茶庭を設えた唯一無二の既存本館をより磨き上げ、新たな美の体験や交流を提供する新館を増築しました。日本庭園に点在する文化財の茶室と共に、庭屋一如(庭と建物が一つのごとく、融合している様子)で多様な美の世界のニーズに応えていく美術館に生まれ変わりました。

茶室の文化財的価値を制約緩和に活かす

既存本館は現代建築と比較すると性能が劣後しており、「収蔵」、「展示」そしてこれからの美術館に求められる「集い」・・・いずれの機能・スペースも不足していました。茶の湯文化を体現する茶庭を配置した敷地全体の景観や本館意匠を保存しながら、新たなニーズにどう応えていくかがテーマとなりました。
東京都安全条例の認定条件として延べ面積の上限が設定されたため、敷地内の茶室のうち、文化財的価値の高い3棟を港区指定文化財として残し、他は移築、解体しました。それらの面積を建築基準法適用除外によりゼロとすることで、新館の床面積をより広く確保し、展示空間を3倍に拡張しました。多機能な施設を狭小な敷地裏側に建設し、本館へのアプローチ空間を維持しました。

公開承認施設を目指した新館展示室

国宝や重要文化財を所有していることから、今後、他美術館との連携を促進し、体験の幅を広げる公開承認施設基準の機能を整備するために、耐震•防火性能確保、温度湿度管理、セキュリティ対策等所蔵品保存•保全を充実、公開承認施設基準の空気環境を整備しました。
新館は収蔵庫を2か所新設、免震機能付きの壁面展示ケースは、高透過低反射ガラス製、展示室中央の黒漆喰壁の意匠は、展示ケースへの映り込みを防ぐ効果も兼ねています。

「即翁與衆愛玩」の伝統を磨き上げる本館

本館は、畠山一清が自ら設計としたと語る通り、即翁の茶の湯文化への想いとつくりあげる楽しみが込められています。特に2階は、書院風の端正な意匠の中に茶室と庇を配した茶室で茶道具を愛でるような空気感を湛えた展示室で、柱や長押など既存の木部には、現在手に入れることが難しい最高級品が使われていました。当初は内断熱化により全て新規材でやり直す計画でしたが、外断熱化、部材の再利用を提案し、これまでの空気感の継承、さらなる洗練をはかりました。
設備、展示装置、耐震性、断熱性などいずれの性能も向上させ、美術館としての機能性の向上、長寿命化を実現しました。

構造設計コンセプト

耐震壁を採用した重厚感ある構造形式と大スパンスラブの軽量化

新館は、耐震壁をバランスよく配置し、壁内に付帯柱・付帯梁を納めて外部に部材形状を出さない設計としています。また、3階メイン展示室は、天井高さを確保するためおよび建物を軽量化するために、15mx10mのスパンにボイドスラブを採用しています。

耐震補強を施した築60年の歴史的構造体

1964年竣工の本館の躯体については、耐震診断を行い壁補強等により既存建築物の使用を可能にする方針として、新プランに沿った形で壁の増設や撤去を行い、必要な壁量を設定し耐震性能を確保しました。さらに、長期荷重が支持できていなかった部材に対しては、下層階から方杖を設置することを提案し、既存躯体にポストヘッドアンカーを用いて接続させています。

設備設計コンセプト

公開承認施設を目指す美術館に相応しい空調システム

新館の展示室には、公開承認施設の基準となる温湿度条件を満たしかつ24時間美術品を守るため、温湿度を常時一定に保つ恒温恒湿空調システムを導入しました。また、本館収蔵庫には気流による美術品への影響を抑えるため、二重壁内を空調することで間接的に温度を制御する空調システムを導入しました。

既存本館の展示空間を再現した照明計画

既存本館は自然光を取り入れた独自の展示空間でした。この展示空間を改修後にも再現すべく、光環境把握のために改修前に照度/色温度を計測しました。得られた実測データ及び既存情報をもとに、改修前の光環境をシミュレーションで再現しました。この既存再現データの光環境に近づくように改修後の照明計画を実施しました。

担当

基本設計 株式会社新素材研究所
実施設計 大成建設株式会社一級建築士事務所
監理 大成建設株式会社工事監理一級建築士事務所
大成建設担当者
建築設計 渡邉智介、有泉祐子、杉江夏呼、中谷扶美子、横山恭太
構造設計 河本慎一郎、川岡千里、神戸寛史、藻川哲平
設備設計 梶山隆史、山本健太郎、柳田祐里、遊佐大智、平井宏之
電気設計 梶山隆史、小林徹也、濃添ゆうな
ランドスケープ 山下剛史、林秀一郎

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