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WORKS 2019

ハーモニック・ドライブ・システムズ有明工場 本館

用途:工場
所在地:長野県安曇市
延床面積:22,461.99m2
地上:3階

建築設計主旨

人-地域-自然-工場をつなぐ 環境共生型工場
精密減速機の開発、製作、販売を行うハーモニック・ドライブ・システムズの有明新工場計画です。
かつて地域の賑わいの中心だった靴店工場跡地に、人-地域-自然-工場の関係が断絶した郊外型の工場ではなく、「地域のプラットフォーム」となる新しい工場を設計しました。
山岳環境に呼応するひとつながりの大屋根の下に、地域、他工場、来客者、緑が集まることで、新工場はこの場所のプラットフォームとなります。 既存工場1号館と2号館、新工場、既存の森をつなぐために、街道に沿わせて南北130mのプラットフォームを作りました。
既存の森を保存したハーモニックガーデン側には、託児所や学童保育エリアを設け、地域の人や工場の従業員が利用できるようにしています。

安曇野の風景との融和
建物ヴォリュームをできるだけ低く抑えることで、周囲の山並み、家並みに馴染む建築としました。
既存樹木を保存しながら、敷地の最大2mの高低差を活かして地形に沿うように建てることで、土地の記憶を継承し、建物を風景の一部としました。
外装材に用いたあずき色は、古くからこの地域の屋根に耐雪用の塗料として用いられたのがきっかけで、安曇野の地域色として用いられています。そのあずき色を用いることで、安曇野の風景に融和する建築となっています。

風土を反映した空間構成
伝統建築が多く建つ安曇野の地に根ざす建築を考え、屋根-軸組み柱-中間領域という日本の伝統建築の要素を建築に取り込みました。
のびやかに広がる130mの大屋根、縁側領域を構成する300角の細柱、軒下の中間領域が、安曇野という寒冷地で快適なワークスペースを生み出しています。
外装材の開口パターンは、街道沿いの宿場街のスケールに合わせ、従業員、来客、地域の人の多様な小さなふるまいが大屋根の下に集まり、内部の活動が表出するように設計しました。

トリニティ・ヴォイド
3つの異なる楕円形の部品が重ね合わさることで成り立つ減速機の原理をヒントに、従業員、来客、地域の3つのエリアの重なる場所に楕円吹抜け空間「トリニティ・ヴォイド」を設けています。
ここは互いの交流を促進すると共に、眺望や自然換気など安曇野の大自然を感じられる施設の核となります。

ワークショップによる育てる建築
設計初期段階で、個別インタビュー、その後独自のアンケートを取り、最終的に各部門の老若男女の20人と専門家を集めて、使い方のワークショップを行いました。
ワークショップで得た意見を施設作りにフィードバックすることによって、生産エリア内にも交流スペースを設置したり、既存の森に桜の望める散歩道を設けました。
また「トリニティ・ヴォイド」では、工事で伐採した檜、桜、松、杉材を使用し地場の木材加工業者と協働してスツールをつくり、愛着をもって利用しています。
このようにして、「ひとつの大きな屋根に集う」というストーリーを共有しながら、様々な人を巻き込み、企業と地域がともに成長するプラットフォームをデザインしました。

構造設計主旨

生産エリアにおいては、10m×20mのグリッドの無柱空間を実現するため、トラス架構を用いるとともに、外周部に座屈拘束ブレースを採用し、フレキシブル性に優れ、高い水平剛性と耐力をもつ構造としました。
これにより、通常のラーメン構造に比べると建物変形を抑え、かつ1.5倍以上の耐力をもった架構となり、地震発生確率の高い糸魚川・静岡構造線断層帯に近い計画地に対しBCPにも配慮した計画としました。
厚生エリアにおいては、大屋根の大きな跳ね出し、食堂エリアの跳ね出しの構造部材厚みを極限まで薄くし、ファサードの見え方に配慮しました。
さらに300mm角の細柱について火災に関する検証を行い、防火被覆を無くすことで、柱の存在感を薄めることができ、豊かな空間の創出の一助となりました。
守衛所においては、片持ち壁柱とスラブ内蔵梁による柱型・梁型の見えない架構形式としました。
最大2750mmの壁柱からの跳ね出しスラブが全周のハイサイドライトと相まって、屋根スラブが浮いて見える架構を実現しました。

設備設計主旨

短期設計・短工期の中、客先要望を丁寧に具現化し、将来的な変更にフレキシブルに対応可能で意匠計画にも配慮した設備計画を行いました。
工場エリアの加工室においては、空間上部のトラス梁部分を設備機器置場として利用し点検歩廊を設けて、設備メンテナンス時の生産への影響を極力なくしました。
また、バスダクト・ファクトラインでの電源供給および各種機器を均等に分散配置することで生産条件の変更に対応可能な計画としました。
さらに既存工場での問題点であった、空調に関しては、置換空調による低風速吹出し高効率空調・温熱環境シミュレーションによる空調効果の確認により解決を図りました。
屋上機器置場は、施工性の向上・将来の機器増設への対応のため、機器設置高さをRF+1500~1800程度のファインフロアとし、下部に配管・配線スペースを確保しました。
厚生エリアは従業員・来客者への開放的な視認性に配慮した照明計画としました。
さらに建築デザインと調和のため、施工可能なおさまりを十分に調整し、床コンセントや窓面の結露防止ヒーターは埋込型を採用、空調吹出しは壁面ノズル吹出し等を計画しました。

担当

担当
設計 大成建設株式会社一級建築士事務所
大成建設担当者
建築設計 古市理、五嶋崇、加藤将人
構造設計 有山伸之、豊島裕樹
設備設計 鈴木真吾、福田大空
電気設計 鈴木秀佳、田畠恒瑛