YOUNG ARCHITECTS & ENGINNERS / STUDENT SQUARE

愛着あるモノ

SCENE_5 鹿沼 3650m2のプレート

里山の緑に対峙するリブ付金属板

栃木県鹿沼市の郊外、日光に程近い里山に配された工場の大屋根だ。

「マッチ箱でいいんだよ。工場の増築棟なんだから」
白髪混じりの頑固そうな会長の最初の一言だった。横でプロジェクトを仕切るご子息の社長が苦笑いする。

若社長は敷地を歩きながら会社の先進性とこれからのグローバル企業にふさわしい建物がほしいと本音を漏らしてくれた。

それからの一年は会長と社長の板ばさみでプロジェクトは紆余曲折だった。会長を説得し、この土地が持っている魅力、緑豊かな日光連山と大芦川の狭間に立つべき姿を再度、一緒に話し合った。

その中で、この辺り一体が雷の巣で避雷針の設置が不可欠であることがわかり、避雷針を兼ねたマストとテンションの吊架構が大空間構築の候補に挙がった。

雄大な大屋根と吊ものが昔この地域に栄えた渡し舟を連想させるフォルムであったことが後押しした。同社の優美な工業製品のデザインを参考にし、自然環境に調和し、内部の空間容積を使い切った緊張感あるフォルムを断面スケッチと模型で検証する日々が続いた。

「この空間容積を使い切ったフォルム」という思想は同社の機械設備の担当者や現場をまきこみ実施設計後も、空調システムや運用にいたるまで普及し、様々なソリューションを生み出した。